ドリーム小説 肝心要の所は絶対に口にしてくれない
 そんなあなたが憎い






 かちゃんかちゃん、と音を微かに立てて食器を洗う彼の横顔を見つめながら、私は小さく唸った。


「どうかしたの?呻き声なんかあげちゃって。」


「呻き声のつもりはないんですけど・・・。」


 唸り声に色気もへったくれもないのだが、呻き声と言われるのは遺憾である。私が口をへの字に曲げて、上体をカウンターに突っ伏して恨みがましい目付きで睨み付けると、レンさんは面白いものでも見ているように此方を見て笑いかけてくる。畜生、好きだ、と叫んでしまいたいけどそれは堪えておいて、私は目の前に置かれたギムレットを煽った。


「明日の休み、何がしたい?」


「・・・レンさんは何かしたいことないんですか?」


「んー、ちゃんがしたいことがしたいなあ。」


 またそのパターンか、と私はやはり彼が憎い。
 最近、私はこの目の前でミステリアスな笑みを浮かべる男に不信感というのか、なんとも言い表しがたいもやもやを抱いてやまない。私の望む言葉を、知っているはずなのに、それを敢えて避けているのだろうか。


「じゃあダラダラしたいです。」


「それなら帰りに映画借りて帰ろうか。」


 映画何か気になっていたのがあったはず、などと思案に耽るレンさんの横顔は、その鼻梁の美しさもさることながら、赤っぽく暗い照明の下にあっても色白とはっきりわかり、それが帰って少年然として見えるのだ。
 彼との子供ならば、相手の遺伝子を差し置いて、さぞかし美しい子が産まれるであろうに、とこちらもこちらで思案してみる。


 私はとても気になっている。
 どういう経緯かしらないが、どこであんな雑誌を手に入れてきたのか。
 はたまたその目的とはなんなのか。


 一月前に彼の部屋へ突然姿を現した結婚情報誌。
 レンさん、言葉で伝えてくれなければ分からないのよ。






 帰り道のレンタルショップで映画を一本借りて、明け方まで一緒に観てしまったせいで二人とも起床するのが昼食どきを大幅に過ぎてからになってしまった。
 寝坊なんていつものことだよね、なんて笑って、レンさんは遅めの昼ご飯とおやつを兼ねてホットケーキを焼いてくれた。店で余ったフルーツをわざわざ載せてくれる。


「レンさんは何をやらせても完璧なんですね。」


 薄い唇を上品な程度に開き、そこへフォークに刺したホットケーキを運ぶ仕草を恨めしい、くらいの思いで見つめながら私が言うと、案の定突然何を、という調子でレンさんはきょとんとした。


「そう?料理くらいじゃないかな。」


「字も上手だし。」


ちゃんも上手でしょう。」


「格好いいし。」


「やだなあ、凄くおだててくるね。」


 酔ってるの、なんてお酒を飲んでるわけでもないのだから分かっているくせに戯けてみせるレンさんからは何も異変は感じられない。


「そういえば、来週の結婚式の日の・・・」


 がちゃん、と大きな音を立てて私の手からフォークが滑り落ちて皿を叩いた。
 結婚式という単語に過剰反応してしまった自分が情けない。私のそんな心境は露知らず、レンさんはただ手を滑らせただけだと認識したらしく、目顔で大丈夫か、と尋ねるような視線だけよこして、また口を開いた。


「美容院、予約しておいたよ。九時しか空いてなかったけど大丈夫?」


「あ、うん。大丈夫、ありがとうございます。」


 日中は忙しくてなかなか美容院の予約が取れなかった私に代わり、彼が予約してくれると約束していたのをすっかり忘れていた。


「でもレンさんもお店休めて良かったです。」


「ふふ、こういう祝いの席の時くらいはね。」


 来週の日曜日に、私の地元の友人の結婚式があるのだが、なんの縁か、彼女はレンさんの高校時代の先輩であったことが、以前東京まで遊びに来てくれた彼女をお店に連れて来たときに判明したのだった。それ以来、彼女が東京まで遊びに来ると決まってレンさんと三人で出掛けていたせいですっかり二人も仲良くなり、我々揃っての式への参列を強く頼まれたのだった。
 最初は、異性の僕が式に参列するのは、なんて昔気質じみたことをぼやいていたレンさんではあったが、彼女の夫となる男性もその御家族もそういう手合いの話には無頓着らしく気兼ねする必要はないと、これまた強く言われたものだから断れなかったようだ。


ちゃんも、昇進したばっかりなのに休めて良かったね。」


「そうですねえ。着任早々、部下に休みもらうので、って説明する時は流石に申し訳なかったですけどね。」


 先月の人事発表で、私は今までの努力を見込まれ、昇進が叶ったのだ。レンさんは自分のことのように喜んでくれ、私としても日々の仕事に抜かりなく努めてきた結果といえど、評価されることはやはり嬉しいことこの上ない。
 するとレンさんは少し私の目を覗いてから微笑を浮かべる。何かしらん、と私が思うより先に、すぐにそれを解いて椅子の背もたれに体を預けて、幼い表情を見せる。


「僕、結婚式とか泣いちゃう質だから恥ずかしいなあ。」


「あはは、レンさん意外と涙脆いですもんね。」


 前も映画を観ていたら隣でボロボロ泣きだす彼を見たことがあったので、それを思い出して笑うとレンさんはご不満らしく、また拗ねたような幼い表情をしてみせた。






 結婚式の前日に二人で地元へ戻り、私の実家へ泊まる手はずとなっていた。
 既に二度ほど挨拶がてら上がったことのあるレンさんは、私の両親にもとても気に入られており、当人も人懐こい性格のおかげで直ぐに仲良くなった。


「お帰りなさい、疲れたでしょう、二人とも。」


「ただいまー。」


「夜分遅くにすみません、お邪魔します。」


 父と母の出迎えに頭を下げて、レンさんはつまらない物ですが、なんて言ってお菓子を差し出した。


「あら、ありがとうね。レン君、ビールならあるけど飲む?」


 母がそう言って彼を歓迎するのは毎度のことで、父も既に飲んでいたのか赤ら顔で、是非一緒に飲もう、と乗り気である。レンさんは照れ笑いを浮かべてお言葉に甘えて、と頷いた。


 四人でテーブルを囲って酒を飲み交わして談笑しながら、私は父と母がいつになく上機嫌なことが嬉しかった。父はレンさんの聞き上手な所にまんまとやられて、自分が若い頃の話なぞを大仰に話し、母は久し振りに帰ってきた一人娘とその恋人を交互に見ては、母親らしい穏やかな微笑を絶えず浮かべている。
 普段は滅多に酔うことなどない、曰く本人は顔色も変えずに涼しげな表情で酔っているけれど、なんて語るが、周囲から見ればまるで素面に見えるレンさんが、今日は珍しく饒舌に父と母の話に相槌を打つだけではなく多くの言葉を用いて返答するのを、私は横目でビールを飲みながら見つめていた。


「そういえばが昇進したとこの前連絡をくれてね。レン君の目から見ても、は頑張っているかな。」


 自分の名前がふと父の口から飛び出したので、私が視線をそちらに移すとレンさんは嬉しそうに笑った。


「勿論ですよ。さんは真面目ですからね。」


「真面目なばっかりでレン君も退屈してない?この子、頑固だからねえ。」


 母まで口を挟むのに、私は睨めつけるように両親を見る。いくつになったとて親にとっては子供なのだろうが、どうにも気恥ずかしくてかなわない。


「いえいえ、さんはユーモアもあります。それに真面目でいて下さるおかげで、僕が気付かないようなことにも気を回してくれますし、とてもありがたいんですよ。」


「私、お風呂はいってくる!」


 血液が沸騰しかねないので私はガタリと席を立った。照れてるのね、なんて母が目配せしてくるのも気にくわないが、そうまで恥ずかしげも無く両親の前で私を褒めちぎる彼にもなかなか居た堪れないものがあるのだ。逃げてしまいたくなるのも当然である。そんな私を面白いものでも見るような目付きを、勿論両親にばれないような一瞬の動きであったが、そんな目付きをしてきた彼に私は怒りたくなる気持ちをぐっと堪え、少し荒々しい足取りで脱衣所へ向かうのだった。






 翌朝、レンさんの予約してくれた馴染みの美容院で髪をセットしてもらい、お互い身支度を整えると、母が会場まで送ってくれるというのでそれに甘えて、友人の結婚式の会場へ向かった。
 私は久しぶりに会う学生時代の友人知人に声を掛けられたが、レンさんは私の恋人であったが故に、たまたま今日の主役である私の友人と再会しただけであって、同級の友人がいるわけでもない。逐一友人に声をかけられて足を止める私に、そしてその度、彼はどちら様、と聞かれて同じ答えを繰り返すことになるわけだが、退屈させてはいまいかと、途中、彼の顔を覗きみる。しかしやはりレンさんは立派というのか、もしくは本当に退屈なぞしてもいないのか、穏やかな表情で私の友人に頭を下げ、言葉少なに、しかし決して無愛想であったり相手に取っ付き難い印象を与えるでもなく、得意の優しい声音で自己紹介をする。
 の彼氏、凄く格好いいね、なんて去り際に友人に耳打ちされると、私は顔には出さずとも、そうだろうそうだろう、うらやましかろう、と思わずにはいられない。年上の女から見てもレンさんは落ち着いた大人の男性、という印象なのだから、それが実はまだ若い上に顔立ちもよろしいとなれば、結婚適齢期も少々超えてしまった私を含めた同級生は、みな羨望の眼差しを向けることを禁じ得ないに決まっている。


ちゃん、凄い卑しい顔してるけど大丈夫?」


 ふと、そんな物思いに耽っていた私の横から呆れた調子の彼の声が飛んできて、はっとして顔を引き締めた。何が顔に出さずとも、だ。卑しい顔と評する位には出ていたのだろうから、当然彼は苦笑を浮かべていた。


「お祝いの席なのに何考えてたの?」


「ええと、少なくともお祝いの席に似つかわしくはないこと、ですね。」


 ははは、と乾いた笑いで誤魔化してみると、レンさんは呆れたねえ、なんて言って子供をあやすように微笑みを向けてくる。


 式、披露宴が終わり、私達はもとより二次会へは参列しないことになっていたので、参加する人達に失礼、と声をかけてタクシーでその場を後にした。
 友人らにレンさんのことを褒められ、お酒も入り気分上々、私は夢見心地だった。


「良い式だったね。」


「うん、本当に、すごく綺麗でしたね。」


 今まで仕事一本で頑張ってきた私は、情けないことに友情と仕事の両立が適わず、東京に出てくる以前から友人と呼べる人間は殆ど居なくなってしまった。今日の式を挙げた友人でさえ、何年も音沙汰なく、突然連絡がきたため東京にいる旨を伝えると、たまたまこちらに来る用事があるということで再会して、また付き合いが始まった程度だ。
 何が言いたいかというと、私は。


「友達の結婚式、初めてだったから、なんか感動だった・・・。」


 そう、私は会社の人の式には何度か参列したことがあるのだが、親しい人のお祝いは初めてだったのだ。


ちゃん、手紙読んでるところで、ちょっと泣きそうだったよね?」


 ぷるぷるしてたもん、と付け加えて笑うレンさん。その通り、私は勝手に友人を自分と重ねあわせて、涙がこみ上げてきそうなのを必死に堪えていたのだ。
 もし自分も結婚式を挙げるとするならば、こういう手紙を読むのだろう、そして両親は泣くのだろう、なんて思うと、勝手に感極まってくると同時に、隣に座っていた彼に恨めしい気持ちを抱かざるを得なかった。それを思い出し、またむらむらと理不尽な苛立ちを感じないではなかったが、伝えるわけにもいかず平静を装った。


「でもレンさんも鼻を啜ってたから、泣いてるのかと思ってましたよ?」


「僕は目頭と鼻の奥まではきてたね。」


「やっぱり。」


 そんな調子で家に向かうタクシーの中、高揚して式の感動を互いに話し合う。あのドレスが綺麗だった、などから、はたまた、デザートに出てきたシフォンケーキが美味しかった、などまで。


「あ、でも私、唯一悔しかったことがあるんです。」


 これでもかというくらい感想を、後半はむしろレンさんはただ聞き手に回っているような状態になるまで喋り尽くした後、私は思い出して切り出した。


「悔しかったって?」


「ブーケがもらえなかったことです。」


 私が答えると、ああ、と相槌を打って、続いて意外だと言う。


「ああいうの、あんまり興味無いんじゃないかと思ってた。」


 レンさんが目を丸くしたまま言うのに、私は一度頷く。


「そうなの、そういうジンクスは興味無いんですけどね。でもいざブーケプルズをやってみたら、手元にブーケないっていうのが残念だなあって。しかも凄くアレンジが可愛いブーケだったし・・・。」


「なるほど、そういうことね。」


 納得、といったように頷く彼に、また少し恨めしい気持ちがむらむら。
 確かに元よりそのようなジンクスの類は毛頭信じない私ではあったが、ここ最近の自分の心境上、どうもブーケが引けなかったことで、あの結婚情報誌によってもたらされた期待が悉く打ち砕かれたような気持ちになったのだ。
 そんなことを考えていたら、私はいつの間にかむすっとしていたのだろうか、レンさんが私の頬を手の甲でそっと撫でた。はっとして物思いから抜け出すとレンさんが笑った。


「百面相。」


 面白い、とからかってくるので、誰のせいだ、と言いたいのだけれど、やはりその微笑みの前では無力で、いじけたようにぶうたれるしかなかった。






 タクシーで実家の前までたどり着いた。明日はレンさんの店は定休日、私ももちろん休みを取っておいたため、どたばたと東京に帰るより、私の実家でもう一泊させてもらうという予定であった。


ちゃん。」


 会計を済ませタクシーが走り去っていき、玄関の前に立ち、私が鞄の中からキーケースを探して手に取ったと同時、レンさんに呼ばれた。

「ん?」


 私が顔を上げてレンさんを見ると、目を細めて微笑んで、少しだけ腰をかがめて目線を合わせてくる。色白な肌に映えるうっすらと色味づいた薄い唇がすぼんで、ん、と同じように声を漏らしてキスをせがんでくる。たまにこういう幼いことをして私の母性をくすぐってくるのだから敵わない。その唇に応えて私が重ねると、ご満悦といった様子。


ちゃん、好きだよ。」


「ふふ、私もですよ。・・・あ、なんか久し振りに聞いた気がする。」


「え、何が?」


「なんか、レンさんから好きって言われるの。私も最近言ってなかった気がしますけど。」


 お互い東京に友人がいるわけでもなく、休みの度に一緒に過ごし、交際してからどれほど一緒にいたのか、随分と長くなってくれば、思いついた時にしかそういう愛の囁きなんてものは出てこなくなってくる。勿論、それでお互い不安を感じたりするような年頃の少年少女なわけでもない。相手の態度や表情で十二分、愛を感じられるのだから不満だなんて思ったことはないのだが、いざこうして言われてみると、そして言ってみると、少し恥ずかしいのだが心地よい。


「確かに、言ってなかったかも。なんか指摘されると意識しちゃって恥ずかしいなあ。」


「ええ?レンさん、昔は沢山言ってくれたのに。」


 そういってからかってみると、はにかみ笑いを浮かべる。


「これからは沢山言うよ。」


「ふふ、なんだか私たち初々しいですね。」


 そうして私は手に持っていたキーケースからようやっと鍵を取り出して開けた。
 玄関口の灯りが消えており人気がないこと、さらに夕刻なこともあって、両親は夕飯の買い出しにでも行ったのだと察した。玄関には灯りどりがないので、リビングに続く扉が閉まっていると時刻に関わらず真っ暗になってしまう。私は手探りで壁にある電気のスイッチを押して灯りをつけた。
 履いていたヒールを脱ごうと片足を上げた所で、私はそこにあるはずのない物を見て目を瞬いた。
 玄関マットの上に真っ白な箱に敷き詰められた、真っ赤な薔薇の花。あまりに不自然なそれに、私は思わずしゃがみ込んで、生花なのかな、なんて思って花びらに触れてみた。生花である。随分立派なアレジメントだな、と感心していると、箱の側面に小さなカードが貼り付けてあることに気付いた。そこには見慣れた字で私の名前が書いてあった。


「え、これ、何?」


 その字の主はレンさんだ。私は背後で黙っていたレンさんを振り返った。するとレンさんが珍しく気まずそうな表情をしてそっぽを向いた。
 瞬間、心臓の奥底の方がばくんと脈打った。
 カードに軽く触れると、それが簡単に剥がせるようになっていることに気付いた。そっと剥がして、自然と、その裏面を見た。
 私の喉がひゅっと息を吸う音がした。口元を掌で覆い、驚きのあまり言葉が出てこなかった。






 ― 愛しています






 小さなカードに小さな文字、そのたった一行から私は目が離せなかった。
 すると背後にいたレンさんの気配がふと近づいて、私ば背中から優しく抱かれた。


ちゃん、こっち向いて。」


 優しい声色、薄く、けれど温かい胸板。そして耳を当てなくてもわかるほど、激しく打つ鼓動。
 私はゆったりと抱かれた彼の腕の中で向きを変え、レンさんの方を向いて上を見上げた。思わず手にしていたカードをぎゅっとつまむ。
 視線が絡まり、レンさんはやはり少し気まずそうに一度目を逸らし、何度か口をもぞもぞと動かしては躊躇った様子を見せ、ようやっともう一度、私の視線を捉えた。今度の瞳は意を決したような、いつになく力強く見える。彼が何を言いたいのか分かっている。それでも私は彼の声で聞きたかった。


ちゃん、僕と結婚してくれませんか。」


 気を張りすぎたのか、少しわざとらしい、演技がかった声。それでも私は涙が溢れてきた。


「は、はい・・・。」


 私も短く、頷くだけで限界だった。レンさんのスーツがしわくちゃになって濡れることもかまわず、私は顔を押し付け、スーツの胸元を掴んだ。レンさんがまさに安堵の溜息といったような息を吐くのが聞こえる。それはすぐにふふ、とレンさんがよくする笑みへと変わった。


ちゃん、ありがとう。幸せにするよ。」


「うん、もう幸せだけど・・・。」


「もっともっと、幸せにするよ。」


 うん、と私はもう一度頷いて、レンさんの胸により強く体を預けた。


「ブーケ貰えなかったけど、貰った子よりもちゃんが先に結婚することになったね。」


 そりゃそうだ、と私が思わず笑う。
 そこまでしていると、がちゃ、と玄関のドアノブが回る音がしたので、お互い体を離して息を飲んだ。


「あら、ごめんなさい。お父さん、やっぱりお邪魔しちゃったわよ。」


 ひょっこり顔を覗かせるようにして出した母が背後にいる父に声を掛けた。父は両手に買い物袋を持って苦笑い。


「あの、お、お母さん、このお花・・・。」


 私がそう言いかけた所で母が笑う。


「これね、今日のお昼に届くからって、レンくんに頼まれてたのよ。良かったわね。」


 そういうことか、と合点がいって、レンに改めて視線を投げると、レンはまた視線を逸らし恥ずかしそうにして、父と母に向き直る。


「すみません、ご協力ありがとうございました。あの、ご相談もしましたが、改めて、さんにプロポーズさせていただきました。」


 よろしくお願いします、と頭を下げるレンさんに、私は恥ずかしさを誤魔化すように並んで頭を下げた。すると両親もあらあら、なんて声を漏らし、頭を下げてくる。


「とりあえず、お祝いというか、安物だけどケーキとワイン買ってきたよ。」


 父がそう切り出し、ようやっと気付いた私たちは靴を脱いで家に上がることがかなった。






 東京に帰り、CLOSEの札を出したレンさんのお店に戻り、二人きりで改めて祝いのお酒。


ちゃん、何飲む?」


 カウンターの中に立ったレンさん。


「ふふ、分かってるんじゃないですか。」


 レンさんの右手と左手にそれぞれボトルが握られている。


「ギムレット、ください。」












―あとがき―
ジン+ライムジュースのTALIです。
相当初期に書いた短編ですが、一番人気のある短編でした。
私も書いた当時は本当に気に入って、他にも番外編をたくさん書きたかったですが
なかなか構想が思い浮かばずに終わってしまいました。
基本的に当サイトの優男なレンは指輪とかより花が似合う気がしています。

160811















































アクセス解析 SEO/SEO対策