ドリーム小説 無言で二人並んで歩む
何を話して良いのか分からなくて
気遣わし気な指先が
私の手に触れると
普段とは違う気がして
心細くて怖くて
うまく握り返せない


「よく、ここ、帰り道に寄って喋ったよね。」


たどたどしい
覚束ない
まるで初めて声を出してみたような
心許ないあなたの声が
少し震えていて
私は掠れた声で頷くしか出来なかった


コンビニで菓子パンを買って
ベンチだったり
ブランコだったり
場所を変えては話した公園
話題は尽きなくて
毎日同じような話なのに心が踊った


普段とは反対方面を目指す電車のホーム
線路を挟んで向こう側の人々が
私達の秘め事を知っているような気がして
こちらを見ているような気がして
寂しくて
恥ずかしくて
私は俯いたまま
やはり遠慮がちなあなたの指先を
うまく握り返せない


窓から早足に過ぎ去る景色を追って
もう戻れないのかと思うと
後悔と共に
父と母の顔が浮かんでは走り去って
悲しい気持ちで
心と身体がちくちくと痛む






見慣れない部屋
閉ざされた窓
これから起こる秘め事が
私が私でなくなる瞬間だと
そう思うと


「先に脱いで・・・。」


頼りないスプリングベッド
私の服に手をかける
頼りないあなたの指先
もたついて
ボタンが外せない
焦れったくて
絞り出した私の声も
震えている


シャツを乱暴に脱ぎ去った手付きと
あなたの線の細い胸板が
凶暴に映って
真っ直ぐ見れない


これから起きることが
どれだけのことを得て
どれほどのことを失うのか
考えると怖い


「電気、もっと暗くした方がいい?」


私のブラウスに手を掛けた
震える指先を
必死に抑えながら
気遣わし気に言うあなたの言葉
小さく頷いて返すと
枕元のパネルを触って
更に暗くなった部屋が
より一層静かに感じて
また怖くなる


私の幼い胸が
露わになった時
息を詰めて見詰めるあなたが
獣に見えた
いつもの優しい笑顔は
名残もなく消えて
どこへ行ってしまったの


ひやりとした指先が
私の肌の上で踊る
何か探しているようなあなたの
それが愛撫なのだと
私の身体はまだ分からなくて
ただこそばゆい
焦る動きが
私の心を不安にさせる


声を出した方がいいの?
色っぽい顔をした方がいいの?
私も触った方がいいの?


どうしていいのか分からず
されるがままなのが
居心地が悪くて
目を瞑るけれど
大事に育ててくれた
父と母の笑顔が
浮かんでしまって
じんわりと涙が零れるのを
抑えきれない


「痛い?無理して欲しくないから、痛かったら言ってね。」


努めて優しく
私へ語りかける
あなたの少し長い髪が
私の鎖骨へ掛かる


あれほど毎日
話が尽きなくて
沢山語り合ってきたのに


あなたのことで
知らないことなどないと
思えるほど語り合ってきたのに


今のあなたは
まるで初めて会ったかのように
知らない人みたい


ねえ
私の全てを本当に奪ってしまうの?


指先が
私でさえしっかり触ったことのない
禁断の実を彷彿とさせる
赤い頂へ触れる時
感じた事のない気持ちが
細胞の全てを支配する


「レン、怖いよ。」


思わず零れる言葉を
涙を
指先で拭って
唇をなぞって


ちゃん、好きだよ。」


取ってつけたような
愛の言葉


ねえ
靴下は脱いだ方がいいの?
足は伸ばした方がいいの?


不安と緊張
あなたの欲望が私の入り口に迫りきて
私は思わず
力を入れた


「力抜いて。入らないよ。」


その言葉が何故だか
冷たく感じて
私を物のように
扱っているように感じて
寂しくて
また涙が零れた


「・・・いっ、痛い・・・、レン、痛いよ・・・。」


色っぽい声が出せたらいいのに
画面の向こうの
大人の人が出していたような
艶やかな声が出せたらいいのに
初めて受け入れる異物の不快感で
私は声を荒げて
生理的な涙が
堪えきれない


ちゃ・・・んっ、無理、きついよ。」


あなたの苦しそうな声
上気した頬
あなたの快楽に付き合っている
ただそれだけのような寂しさが
私の身体を余計痛めて


「もっと、お、お願い。ゆっくりして。」


履いたままの靴下が
脱げそうなのが気にかかる
痛いよ
苦しいよ
こんな事やめようよ


「っあ、駄目、気持ち、いいっ・・・!」


掠れた声が
私の骨から響いてくるように
直に触れたあなたの唇が
紡いだ言葉は
罪の香りが色濃くて


「い、痛い?やめた方がいい・・・?」


ゆっくりと動く異物に嗚咽しそうで
でもここで終わりたくないという
大人の階段への憧れ
下唇を腫れそうなほど
ぐっと噛み締めた

「お願い、続けて・・・。」


ここで終われば
もう一度勇気は振り絞れない
痛みに耐えれば終わりだから
やめないで
早く終わらせて
ごめんね
気持ちいいって思えなくて
きっと悲しむとわかっているのに


「っう、ごめ、ん。僕、駄目、かも・・・。」


絶頂を意味しているのだと
私にもわかる
初めての刺激は
とても辛いって
何かで知っていたから


秘め事
どうしてこんなことを
しなければならないの?






頭まで毛布をかぶって
顔を見せないように
あなたの薄い胸元に頭を預けて


「辛くない?」


気遣わし気な声
指先


「大丈夫。」


上手く話せなくて
素っ気なくて


あれだけ語り合ってきたのに
これだけ痛い思いをしたのに


心は
近くなった気がしない


この痛みを快楽というなら
私にはきっと
分からないままの方がいい


「痛かったよね、ごめんね。」


白いシーツに
皺を寄せながら
私の指を
絡め取る


「ううん、レンで良かった。」


痛い
怖い
辛い
それでも
あなたでなければ
考えられなかった


泣きそうな笑顔
幸せに滲んだ瞳


あなたのものになれた証は
幼い身体には
まだ少し重い
それでも
その笑顔が見たかった
あなたの喜ぶ
全てをしてあげたい


「ずっと大事にするよ。」


どこにでも売っている
本に書いてあるような
陳腐な慰めの言葉が
今の私には
胸に痛いほど滲みる


「うん・・・。」


瞳を閉じる
涙が溢れる
拭う指先


お父さん
お母さん


何かを失うことは
こんなにも辛いことなの?


何かを得ることは
こんなにも苦しいことなの?


誰かを幸せにすることは
こんなにも嬉しいことなの?


湿った身体に
父のものでも
母のものでもない


他人の肌を重ねて


私は大人になることは
こういうことなのだと
知ってしまって


後ろめたい
辛い
恐い
悲しい


喪失










ーあとがきー
実はずっと書いてみたかった処女喪失のお話。
夢小説というよりは、普通の小説に近いですが、喪失するということがどういうことか、
どう感じることなのか。
思い出してもらえたら、少し嬉しいです。
イメージは「離れるな。」のレンとヒロインなので、
番外編として。
140506














































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