ドリーム小説 「彼女いますか?」


「604円になります。」


「あの・・・、彼女いますか?」


「・・・。」


「すみません、あの・・・。」


「あの、他のスタッフもいるんで、そういう話はちょっと・・・。」


 彼が目を細めて苦笑いしながらではあったが、なんとか問い掛けに返事をくれたことだけで、ついつい顔が綻んでしまう。


「あの、604円なんですけど・・・。」


「あ、はい、すみません。千円でお願いします。」


私は財布から千円札を取り出して彼に渡した。彼は無表情でそれを受け取ってつり銭を私に渡してくれる。


「レシートは御入用ですか?」


「いりません。あの、友達になってください!」


 彼がとても困ったような顔をしたのを、私は見逃さなかった。
 彼がこうして近くに居るときに、目を離すなんて勿体無くて出来なくて、私は彼の動きを少しも見逃すことなんて無かった。ずっと見ていたから、すべてを知っているような気分だった。
 しかしここで彼は、とても意外な一言を口にした。


「・・・さん、でしょ?」


 彼が私のことを知っていてくれた。それだけで私は凄く嬉しくて、興奮してしまって、すぐに次の言葉が飛び出していた。


「付き合ってください!」










 レン君は大学で同じ授業を取っている。といってもその授業は出席さえしていれば、後は簡単なレポートの提出のみで単位が取れる授業なので、大勢の生徒が取っている。大きなルームで、見たことも無い人たちが百人ほど集まって授業を受けている。その中でも一際目立っていたのが、鏡音レン、その人だ。
 私は一目でレン君を好きになってしまい、いつも目で追いかけるようになっていた。授業中も、レン君が見える席に座るようにしたし、校内ですれ違った時など釘付けである。柔らかそうな金色の髪の毛と、作り物のような綺麗な肌と、あまり力を入れすぎていない服装と、友達と話している声、それらがとても好きだった。
 レン君を好きになってから二ヶ月ほど経った頃、家の近くに出来た新しいコンビニが出来たので、夜中にお菓子を買いに行ったのだが、そこにレン君が居た。私はあまりの嬉しさで、彼を見つめるばかりで声も掛けられず、お菓子のお金を払ってそそくさと出た。
 それ以来、私はよりレン君を追いかけるようになってしまった。
 そして、私は晴れて昨晩、レン君と話をすることに成功した。それが冒頭の会話だ。とてもふざけていると思われるかもしれないが、これが私の精一杯だった。






「あんたいきなり“付き合ってください”なんて、引かれてるかもよ。それに対しては無視だったんでしょう?」


「無視っていうか笑って誤魔化されちゃったの。でもね、私も流石に話が突飛しすぎたと思って恥ずかしくなって逃げ出しちゃったの。どうしよう、いきなり変なこと言ったから嫌われちゃったかもしれない。」


 私は早速大学の友人にレン君と話したことを伝えた。


「まあ、他人からしたらちょっと気持ち悪いよね。どうするの、今度からコンビニでを見かけたらすぐに逃げ出すかもよ。」


 そうなのだ、きっと変な女だと思われたに違いない。私はとても後悔しているのだ。あの時は興奮していて、自分でも計画していなかった言葉が次々と飛び出した。もう、レン君に合わせる顔がない。恥ずかしい。
 酷く落ち込んでいる私を、友人は適当な言葉で慰めてくれたが、私の心はどんよりとしたままだった。


 今日は水曜日だ。水曜日の授業は昼休憩を挟んで午前、午後とある。どうせならば午前か午後か、どちらかで授業を済ませたいものだが、午後の授業はレン君も受ける授業なので悪く無い。
 私は午前の授業を終えたので、友人と一緒に食堂で昼食をとるため、二人で並んで廊下を歩く。ドキドキする。なぜならば水曜日のこの時間に、決まってこの廊下を通って私は食堂に向かうわけだが、必ずレン君を見つけてしまうからだ。もちろんそれは今日も変わらず、レン君の姿が見えてきた。
 ガラス張りの喫煙室の中に、いつも一緒に授業を受けている友達数名とレン君が居る。レン君が細くて長い指の間に煙草を挟んで、伏し目がちに友達の言葉に頷いているのが見えた。私は自然と歩調がゆっくりになり、どうにかして声を掛けたいが、そんな勇気もなく通り過ぎてしまう。自分で自分の度胸の無さに泣けてきた。
 すると、後方で扉が横にスライドする音がした。


さん。」


 音のした方から聞きなれた声、しかし呼ばれ慣れない名前が聞こえて振り返った。レン君が喫煙室の扉を横に押し開けて、通路に体を出してこちらを見ている。


「は、はい!」


 私は思わず声が上擦った。恥ずかしい、なんて情けない声を出しているのだろう、私は。
 するとレン君は目を細めて、太陽のように暖かく笑う。


「これから御飯?」


「う、うん。御飯です。」


「そっか。午後の授業、出るよね?」


 レン君と会話のラリーが続いている。私は幸せすぎて、このまま死んでも良いくらいの気分だった。


「うん、出るよ。レン君・・・、鏡音君も出るよね?」


 私はいつも陰でこっそりと彼の名前をそう呼んでいたけれど、よく考えれば馴れ馴れしい。急いで訂正すると、レン君は小さく噴き出した。


「うん、レン君も、出るよ。」


 堪えるような笑い声が漏れてくる。私は完璧にからかわれているかもしれない。しかし、目を細めて、口元に手を当てて笑うレン君が色っぽくて、それを見てるとどうでも良くなってしまう。


「じゃあ、後で、ね?」


「うん、ばいばい。」


 ガラス張りの喫煙室、外からの日差しを背に浴びて、レン君の柔らかそうな金糸がゆらゆらと光った。その眩しさに劣らず、とても綺麗な笑顔でひらひらと細くて長い、白い指先を揺らして手を振ってくれるものだから、私は顔が熱くなる。私も小さく手を振って、名残惜しくもその場を後にした。友人が「よかったじゃん。」と背中を強く叩くことにも、何の反応も出来ないほどに、私は興奮していた。






 昼食を摂り、午後の授業はいつもと大体で同じあたりの席に座る。レン君が私より随分前の席に座るのを、私は知っている。出来れば教授の近くの席なんていうものは座りたくないので、前の方に座るものは、よっぽど勉強熱心な生徒か、時間ギリギリにやってくる生徒だけだった。レン君はその後者で、時間の一分前に友達と笑いながら入ってくる。私の座る席の横を通過して、入ってくるのだ。
 今日もいつもと同じで、私の横の通路を、猫背の細い体が通っていった。私は先ほどの声と笑顔を思い出すだけで興奮して、机に突っ伏せてしまう。


 凄く好きだ。


 結局いつものように、教授の声など私には届かず、私は随分前の席にあるレン君の金髪と、たまに見える横顔をじっと見つめているだけだった。他の授業では長いと感じる九十分も、この授業だけは一瞬のように感じる。そして物足りないのだ。
 授業を終え、教授が出て行くと同時に室内がざわめく。やっと終わったという伸びが視界の端々に映る。私もこれで今日の授業が終わりだと思うと、同じように伸びをする。


「今日も終わったぁ。」


 私は隣にいる友人にそう言って同意を求める。友人も「やっと帰れるね。」と嬉しそうに笑って荷物をまとめだした。私はずっと座っていたせいで固くなった背中を、友人の方を向いたまま、もう一度伸びをしてほぐした。すると、急に頭に誰かの手が伸びてきて、髪型がぐしゃぐしゃと崩される。私は驚いて後ろを振り返ると、既に頭から手は離されており、通路を上がるレン君がいた。


「・・・。」


 私は嬉しさで声にならない声を、口の中でこだまさせる。レン君はちらりとこっちを見て、また手を振ってくれた。掴み所のないレン君の笑顔に、私は翻弄されっぱなしだ。私は顔を赤くさせたまま、レン君に手を振り返した。






 私は学校帰りにそのままアルバイト先の喫茶店に行き、夜十一時まで働き、家に帰る頃には十一時半を回っていた。学校のテキストが詰まった重たい鞄を下ろし、お菓子とお酒をテーブルに用意する。まったりとしたこの時間が、一人暮らしの私には至福の時だ。暫くテレビの画面をぼんやりと見つめながら、今日の学校での出来事を考える。レン君が予想外にも私に話しかけてくれたりしたことが、とにかく嬉しかった。どうしたらもっと距離を縮められるか、色々と考えてみるが、私の頭では大したことは考えられない。今日もレン君が勤めるコンビニに行くだけだ。いつも二時すぎにコンビニへ向かうので、今日もそれまで少し眠ろうと思い、ベッドに横になる。こんなだらしない生活をレン君には見せられないと思いながらも、今日の出来事で幸せいっぱいの頭はゆっくりと眠りへ誘われた。


 起きた時には時計が三時ちょうどで、私は急いで体を起こした。きっとレン君は夜勤なので問題ないのだろうが、どうも今まで二時だったものが一時間ずれるというのは気持ちが悪い。私はいそいそと財布と携帯電話を鞄に入れてコンビニへと向かった。


 コンビニへは自転車で五分ほど、コンビニに着いたのは三時十五分前だった。私は夜風で乱れた前髪を整えて、コンビニの自動ドアを通り店内へ入った。レジを見ないように心掛けてお菓子を手に取り、レジへそそくさと持っていく。しかし、レジにはレン君がいない。いつもレン君ともう一人の男性スタッフがいるが、その男性スタッフしか居ない。私はとてもショックを受けたが、たまにはレン君だって休みがあって当然だと思い、大して欲しくも無いお菓子の代金を払い、レシートを受け取る。いつもレン君にしていてもらったことを違う人にしてもらうだけで、こんなにも無心で業務的な物だと思い知らされた。


「あれ、さん?」


 思わぬ方から声がして、私は驚いて顔を上げた。すると今日、学校で着ていた服の姿のレン君が缶コーヒーを片手にレジから出てきた。


「今日は遅かったね。」


「う、うん。なんかぐっすり眠っちゃって。」


「そっか。今日はもう来ないのかと思った。」


 少し唇を尖らせてそう言って、すぐに口角を釣り上げて微笑むレン君。私は思わず見とれてしまい、言葉が返せなかった。しかしそれを気にも留めないようにレン君は店内の時計をちらりと見てから、もう一度私を見て口を開く。


「僕、今上がりなんだ。良かったら家まで送ろうか?」






 思わぬ展開だ。これは夢なのだろうか。普段一人で歩いている道をレン君と歩いている。人気の全く無いこの真夜中に、レン君と二人きりなのだ。これはどう考えても、私がけなげにレン君を思い続けたことに対する神様からの御褒美だ。


さんの家、近いの?」


 レン君はそう言ってから、パンツのお尻のポケットからソフトの赤マルボロとジッポを取り出すと、一本煙草を引き抜いて火を付けた。煙草の臭いが夜風に舞って鼻に届くが、すぐにレン君の香水の香りがより色濃く香ってきた。


「うん、自転車で五分くらいかな。レン君・・・、鏡音くんは」


「レン君でいいよ、ちゃん。」


 私がまた慌てて名前を呼びなおそうとするのを遮って、レン君は甘い声で笑って、私の下の名前を呼ぶ。こんな綺麗な声で名前を呼ばれたのは初めてだ。それだけでドキドキする。


「えっと、レン君は、家近いの?」


 私がそう尋ねると、レン君は小さく頷いて進行方向の右斜めを指差した。


「あっちの方。僕は歩いて五分かな。」


「じゃあ結構近いね。」


 私はこんなにも近くに住んでいながら、今までコンビニ以外でレン君を見たことがないのが悔しいとさえ思った。しかし、そんな私をよそにレン君はクスクスと笑っている。どうしたのだろうかと私が不思議に思っていると、レン君は目を細めてこちらを見て、笑い声を抑えてから口を開いた。


「ごめんね、なんか面白くて。ちゃんなら僕の家くらい知ってると思ってたからさ。」


「・・・どういうこと?」


「僕のことずっと見てたから、家くらいは調べ上げてるのかなあって。」


 とても心外なことを言われたと思うべきなのだろうが、そんなことよりも私は、私がレン君をずっと見ていたことを本人に知られていたことに驚いた。そんなに分かりやすかっただろうか、私は恥ずかしくなって目が泳いだ。


「さ、さすがにそこまではしない・・・です。」


 そうは言ったものの、一度「レン君がどこに住んでるか、誰か知らないものか。」と考えたことがあったので、言葉尻がしゅんとしぼんでしまった。


「ごめんね、失礼だったね。でもちゃん、あからさまに僕を見てるから、さすがの僕でも少し恥ずかしいんだよね。」


 レン君は綺麗な薄い唇で思ったよりも残酷なことを言う。私はそこまで言われてしまうと、もう気味悪がられているのではないだろうかと考えてしまう。否、きっとそうだ。私はそう考え始めるが最後、もう思考はポジティブな方向には向かわず、恐る恐るとレン君を見上げた。するとレン君は何かまじまじと私の顔を見つめている。


「な、何か付いてる・・・?」


 私は頬周りなどを指先でなぞってみたが、特に違和感は感じない。するとレン君が立ち止まったので、私もつられてその横で立ち止まった。そして彼は私の頬に手をそっと置いた。ひんやりとした指先にびくっとする。人形のような顔つきに、この冷たさ。彼はやっぱり私と同じ人間ではなく、作り物なのではないだろうかと、そんな妄想にまで及ぶほど、レン君は綺麗だ。


「・・・ちゃんってさ、うちの実家の猫に似てる。」


 私が心底不安がっているのにも関わらず、レン君はそう言って、私の頬を軽くつまんだ。痛くはないけれど、恥ずかしいのでやめてほしかった。


「ね、猫ですか・・・。」


「うん、そっくり。うちの猫ね、凄い可愛いんだよ。僕、猫大好きなんだよね。」


 悪気はないのだろうが、それは恋愛経歴の少ない私には思わせぶりな台詞だ。私はどう反応して良いのか分からず、しどろもどろする。しかしレン君は私の頬をずっとぷにぷにとつまんでいるので、この話を続けることにした。


「どこら辺が似てるの?」


 私の疑問に、レン君は小さく笑う。そして私の頬から指先を離し、鞄から携帯灰皿を取り出すと、吸殻をそれにしまった。


「んー、目とか口元かな。あと、うちの猫は僕に凄く懐いてて、僕がたまに実家帰ると、玄関に出迎えにきてくれるんだ。僕が居なくなって寂しかったのか分からないけど、家に居る時はずっと僕についてくるんだ。でも僕が触ろうとしない限り近づいてこなくて、ずっと見てくるの。」


 レン君が語るのを、私はなんとも言えない気持ちで聞いていた。


「ね、そっくりでしょう?」


 含み笑いをしながらレン君が同意を求めるように小首を傾げて私を見る。これは、完璧にからかわれている。私はなんて返せばよいのか分からず苦笑いをしてしまう。


「僕、学校でちゃんを初めて見た時から、うちの猫だと思ったんだよね。」


「そう、だったんだ。そういえば、なんで私の名前、知ってたの?」


 ふと学校という単語が飛び出したので思い出したが、何故レン君が私の名前を知っているのか、それは疑問だった。私はレン君に比べて、決して目立つタイプではないので、名前が知れ渡っているとは思えない。


「だから、うちの猫そっくりで可愛いと思ったから、授業終わってからちゃんの横を通ったときに、ノートに書いてある名前チェックしておいたんだ。」


 この人は本当に反応に困る回答ばかりしてくる人だ。私のノートに名前が書いてあるのは事実だ、いつも通路側に座るので見ようと思えば見れるのだが、問題はそこではない。可愛い、という発言は女の子にとっては最高の褒め言葉だ。それを何の恥じらいもなく言えるレン君は、とても女の扱いに長けているのではないだろうか。少なくとも、私よりは充分その面では大人に違いない。


「そうだったんだ。知らなかった。」


「まあ、普通はそんなこと言わないからね。しかもずっと僕のこと見てる割には声掛けてきたりしないし、僕も声掛けるのは悔しいって思えてきちゃって。言う機会も無いってわけだよ。」


 なるほど、なんて頷いている場合ではないが、こうも大人っぽい笑顔で言われると頷く以外に他がない。私がそんなことを考えていると、見覚えのあるアパートが見えてきてしまった。私の家だ。


「あ、ここ、私の家。」


 私がアパートを指差すと、レン君はその前で立ち止まる。私は一瞬のように過ぎてしまったこの時間を、ずっとリピートしていたかった。しかしそうはいかないので、名残惜しくもバイバイをしなくてはいけない。私はふと指先で持っていたコンビニのビニール袋を思い出した。中にはお菓子が入っている。私はそれを一つ取り出してレン君に差し出した。


「あの、レン君。これ、送ってくれたお礼。」


 私はそう言って小さく頭を下げた。レン君はそれを受け取って、パッケージに書いてあるお菓子の名前を、声に出さず、唇の輪郭だけで言うと、私を見た。


「ありがとう、家で食べるね。」


「ううん、こちらこそ、送ってくれてありがとう。」


 私はもう一度頭を下げた。すると、レン君の手が伸びてきて、私の髪の毛をくしゃくしゃとしてきた。今日の授業終わりの時と同じように、髪型が崩れる。驚いてレン君を見ると、レン君はまた妖艶な笑みを浮かべている。


「本当は前から、こうやってちゃんと話してみたかったんだ。」


 吐息のように漏れる笑み。私は目を丸くして、レン君をじっと見つめてしまう。


「話しかけてくれてありがとね。」


 迷惑かもしれないと思っていた不安を、一気に取り除いてくれるその言葉に、私は嬉しさで涙さえ出てきそうだった。


「ううん、いきなり話しかけて迷惑掛けちゃったかなって、ちょっと不安だったんだけど、良かった。」


 私がほっとしてそう答えると、レン君は「あぁ。」と思い出すように声を漏らした。


「確かにあのタイミングはちょっとね。一応他のスタッフも居るから場所は考えて欲しかったかな。」


「ご、ごめんなさい・・・。」


 私の安堵感は打ち砕かれて、違う意味で泣きそうになる。するとレン君は私と目線を合わせるように、少しだけ腰を曲げて、私を覗き込む。


「うん、だから今度からはコンビニには来ないように。」


「・・・えっ!」


 レン君は素敵な笑顔で残酷な命を下された。それだけは困る。学校以外で唯一レン君に会える場所だというのに、だ。


「こんな時間は危ないでしょう?一人で帰すのは心配。」


「でも・・・、レン君ともっと仲良くなりたいのに。」


 思わず心の声がそのまま言葉になって口を飛び出し、私ははっとした。なんとかして言葉を取り消したいが、その言葉は事実なので、変に嘘で否定しても余計浮き彫りになるだけだと思うと、口の中で言葉がもごもごと暴れるだけに終わる。


「これは僕からの提案なんだけど・・・。」


レン君はそう言うと、私の頬を両手で柔らかく挟み、無理矢理にでも視線を絡めてくる。私の頬の熱さが伝わってしまう。どうしようもなく恥ずかしくて、視線を泳がすと、レン君が小さく「こっち見て。」と催促してくるので、仕方なく視線を絡める。これは長く保たないだろう、心臓が先に止まってしまう。しかし私がドキドキしていることなど気にも留めず、レン君は言葉を続ける。






「これからは時間が合う時は僕と学校へ行くこと。それとお昼御飯は一緒に食べること。授業が一緒の時間に終わる日は一緒に帰ること。休みの日は一緒に遊ぶこと。」






 唐突な上に想像もしていなかった言葉が飛び出す。思わぬ提案に私がぽかんとしていると、レン君は私を見てふざけたように眉間に皴を寄せる。


「出来るの?出来ないの?」


「で、出来ます!」


 これは夢なのではないだろうか、今日はそんなに沢山お酒を飲んだ覚えはないのだが、幻覚だろうか。私は実感できない嬉しさに声を上擦らせながら、少し大きな声で返事をしてしまった。するとレン君はまた笑う。


「いい子だね。」


 レン君は優しい声でそういうと、私の意志などを無視して唇を重ねてくる。猫のように、舐めるような可愛らしいようで、少しエロティックなキスだ。私がその突然の行動に言葉を失っていると、レン君は声を出して短く笑った。






「僕の言うことを聞いてくれる御褒美だよ。これからよろしくね、ちゃん。」






 このキスが御褒美?
 これからは毎日が御褒美だらけではないだろうか。




















―あとがき―
久しぶりの短編です。勢いに任せて書いたので、台詞よりも文章の方が多くて申し訳ありません。
設定も考えずに、とにかく最初の出だしだけを思いついて、そこからは気分で書き上げました。
レンのキャラが定まっていない気がしますが、大丈夫でしょうか。
掴み所のない、自由人なレンが書きたかったんです。すみません。

090327















































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